漏洩まんが祭り

漫画・ゲーム・映画・怪奇の備忘録と虚無の日記

夜霧よ、今夜も…/『八甲田山』

 ここ数カ月「なんだか寝つき悪いな~」って思ってたんだけど、最近はグッスリ泥のように眠ってます。『スーパーマリオメーカー2』が普通に面白くて時間泥棒なのと、『マリメ2』発売までのあいだ、ちょっと場つなぎのためにと『Fallout4:Game of the Year Edition』を始めてしまったから。どう考えても場つなぎにプレイするタイトルではなく、すさまじい選定ミスであったがそんなことは置いといて居留地を供給ラインで繋げるのた~のしい~。とかやってたら夜明け近くになるので眼精疲労を目の奥に感じつつ死んだように眠るのだが、これは寝つきが良くなったと言っていいのやら。ハマタはどう思う? と尋ねたら「ハマダや!」とキレのいい返答が返ってきましたよ。(鳩時計のハトに30分ごとに頷きながら)

 


 

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 午前10時の映画祭で『八甲田山』を観てきた。これまた未見だったのだが、有名な「天は我々を見放したッ……」のセリフや、劇中で兵隊さんがシベリアのアイデア料理みたいになってるシーンなどは「知っている」気がした。パロディとしても使われまくってるだろうからそれ経由だろうか。
 ご存知の方も多いだろうが、本作は新田次郎『八甲田山死の彷徨』を原作とした2時間49分の大作。高倉健に北大路欣也、三國連太郎に緒形拳に加山雄三に丹波哲郎と、まあ錚々たる役者陣が揃っている。時は明治、ロシアに攻め込むためには歩兵たちに雪中行軍の訓練をさせにゃならんべえと、弘前の徳島サンチーム(高倉健)、青森の神田サンチーム(北大路欣也)がそれぞれ八甲田山の踏破を目指す。徳島隊は少数精鋭で臨み、地元の猟師たちを案内人として雇ったおかげで全員、無事に雪中行軍を成功させたのに対し、神田隊のほうは200人以上の大所帯なうえに指揮系統を無視するクソ上司、ピクニック気分の部下などのろくでもない条件が重なりたった数キロの時点で遭難。猛吹雪に行く手を阻まれ完全に進退窮まり、坂を上ろうとして滑落する者、おしっこを漏らしてそのまま凍死する者、気が狂って全裸になる者、気が狂って川に飛び込む者、気が狂って木の枝に突撃を繰り返す者などが続出するのであった。
 「天は我々を…」のセリフは、それまで数々の困難(おもに上官のムチャ)にも耐えて気丈に指揮を続けていた神田大尉が、本当にもうどうにもこうにもならない絶望的な状況に陥って初めて、心の底から絞り出すようにして発した弱音である。ここに至るまでの彼の経ち振舞いや、部下からの厚い信頼ぶりなどを見てきた観客にとっても非常に重く刺さる一言であった。
 映画自体は前半の重厚っぷりに軽い眠気を覚えたものの(午前10時はおれにとっては早起きだし…)、中盤以降の地獄絵図は目が離せない。どうでもいいが、おれは本作の英題が「WHITE HELL」であることを聞いて「身も蓋もねえなあ」と思っていたのだが、実際に観賞してみるとこれほどまでに端的に内容を表している題もないなと考えを改めた。後にちゃんと調べてみたところ、本作にそんな英題はいっさい付いていなかったので、どこでそんなウソ知識を仕入れたのだろうかと自分に呆れたのだが。
 なんにせよ、見て損はないさすがの傑作でありました。ラストの日本むかし話みたいな怪奇現象も「それくらいのことは起きて不思議はないな」と思わせる、雪山の魔が存分に描かれている。